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ご無沙汰しております…! 今さらながらにホワイトデー話です。男子高生双花です。 以前書いたバレンタイン話のその後です。 次回更新はまた来月となります。またいらしてくださると嬉しいです(>_<) 『じゃあ、これがほしいな』 1、08時30分 教室に入って絳攸は、やっと今日が何の日なのかということに気付いた。 「お前も、お前の…お、お兄様に持ってきたのか?」 念のために聞くと、照れたような苦笑したような表情で、級友は頷いた。 「バレンタインにあげたり受け取ったりするなんて知らなかったからさ、バレンタインにお兄様からもらって驚いた。なんか、変な文化だよな」 「全くだ。そして問題は、それを忘れていたことだ」 「え?」 「今日がホワイトデー、だったんだな」 ちらりと黒板を見やれば、日付はきちんと《3月14日》となっていた。迂濶、と内心つぶやく。 「もしかして何も用意してないのか?」 「ああ。…まずいな、楸瑛何かやらないとうるさいよな」 「…『楸瑛』って、藍先輩、君のお兄様なんだから呼び捨てマズイだろ」 「え、あ、うん…お、お兄様だな」 うろたえる絳攸に級友は笑う。 「あーなるほど。照れてるのかー」 「そ、そんなわけあるか!慣れないだけだっ」 「そう?俺は相当抵抗あるけど。学校外じゃ呼べないよお兄様なんて」 「…確かに」 ああ、この学校は変だ! ***** 2、15時50分 絳攸は教室から図書室までの道は間違えない。しかし弟が掃除当番だということを知っていた楸瑛は、万一のことも考えて、清掃場所から絳攸を図書室へ送った。 「それじゃ、絳攸。部活終わったらすぐ迎えに来るからね」 「一人で平気だと言ってる!」 「ダメだよ。特に今日はね」 「…」 駄目だ、兄はホワイトデーを忘れていない。 「…分かった。部活終わるの、6時ごろか?」 「うん、片付けとか着替えして6時半ってとこかな。なるべく急ぐね」 「いやいい。ゆっくりで」 ちらりと笑って、楸瑛は踵を返した。兄の背が完全に見えなくなるのを見計らい、絳攸は授業中に考えていたことを、実行に移すことにした。 すなわち。 楸瑛の部活終了までに菓子を買って戻ってくるという苦し紛れの作戦だった。 不安要素は、彼の致命的な方向音痴だけで、それは充分すぎるほどの欠点だったが、しかしそれを彼が認めるはずもないのだった。 ***** 3、18時45分 楸瑛は上機嫌だった。 なんといっても、ホワイトデーなのだ。 あのツンツンした弟が、素直にお返しをくれるかは未知数だが、くれれば嬉しいし、くれなくてもからかうことができる。怒らせることができる。 頑張ってクールぶろうとしている様を突き崩すのが、なんともいえず楽しいのだ。 しかし、敵もさるもの。心浮き立つ楸瑛の期待に、素直に応える弟でもなかった。 「……あれ?絳攸ー?」 図書室に、彼の弟の姿はなかったのだ。 一度待っていると言ったから、律義な彼が先に帰ったとは思えない。 「邵可先生!弟を見ませんでしたか?李絳攸」 図書室の続きは司書教諭室になっている。顔を覗かせた楸瑛に、少 し困り顔で邵可は告げる。 「ああ、それが、止めたのですが最寄り駅の百貨店に行くと言い張って…」 駅まで徒歩20分。 「うわー、…まちがいなく迷ってますね」 仕方ないなと呟いて、楸瑛は弟を探しに出ることにした。近いうちに弟に携帯を持たせようと心に誓って。 ***** 4、19時25分 絳攸は途方に暮れていた。 歩けど歩けど、駅に着かないのだ。 「駅は勝手に引っ越すな!」 毒づいて、空を見上げる。とっぷりと暮れた暗い夜空が、彼の腕時計の指し示す時間の正確さを裏付けた。 「楸瑛、もう帰ったろうな…」 いつも不思議に笑っている顔を、彼はもしかして不機嫌に歪めただろうか。 自分の失敗が―それはそもそもホワイトデーを忘れたことなのか、駅前までたどり着けなかったことなのか、自分自身でもはっきりしなかったが―、重く絳攸の胸を塞いだ。 少しうつ向いて、ややあって顔を上げる。とりあえず帰らなくてはと気をとり直したのだ。 けれども、絳攸はぴしりと表情を固めた。 …どちらが駅なのか、悲しいほどにわからなかった。 ***** 5、19時55分 楸瑛はやっと、うろうろとさまよう影を見つけた。 走り回って荒れた息を整えて、呼びとめる。 「絳攸」 「…楸瑛っ」 切迫つまったような声音に苦笑する。 「お兄様、だろう?あと、駅なら反対方向だよ」 「…っ」 「ここに用がないなら、一緒に帰ろうか」 近付くと、やっと絳攸の表情が見分けられる。それは絳攸にとっても同じことで、窺うように向けられた視線が、ほんの少し緩んだのを見て、楸瑛は笑ってみせた。 「さ、帰ろう」 「あ、あぁ…」 隣に並んで促せば、つられたように弟は歩き出す。 「お疲れ様。一体どうしたんだい?邵可先生がデパートとかおっしゃっていたけど…もしかして」 ぎくりとする弟に、楸瑛は先に答えを言ってみせた。 「ホワイトデー?」 「違っ……わない…。その、先月食べたチョコのお礼をだな、しなければとは思ってたんだ。だけど…」 「忘れてた?」 「まさか今日だとは…、すまない」 ずんずん沈んで行く声に、楸瑛は笑った。 「それで、わざわざ買いに行こうとしてくれたんだ?」 「…悪かった。店閉まっちゃったよな」 「いいよ、なんか嬉しくなってきたし…それとも君は気が済まない?」 「か、借りを残すのが嫌なだけだ。別にホワイトデーとかじゃなくてだな」 しどろもどろになっていく絳攸の言い分に目で笑んで、楸瑛は前方にあるものをみつけて心中で膝を打った。 「じゃあ、何か買ってもらおうかな」 「でも、店が」 「あそこにコンビニあるよ。まだ14日だし、ホワイトデーの商品揃ってるよ」 「え…でも」 すたすた先を行きはじめる兄の背中に、弟はつぶやいた。 「価格の釣り合いが…」 寝ぼけてもそもそ食べたあのチョコは、今思うと一粒300円からのものではなかっただろうか。 ***** 6、20時05分 いらっしゃいませ、の声に迎えられて、白く明るい店内に足を踏み入れた。 件のホワイトデーコーナーは入ってすぐの、レジのそばにある。 「絳攸どれ食べたい?」 「は?いや、俺が返すんだから、楸瑛の好きなの選べばいいだろ」 「そう?じゃあ、これが欲しいな。あとで分けてあげるね」 レジの向こうの店員の視線に気づきながら、楸瑛は菓子を選び指差した。 「別に、くれなくても。これだな?」 「うんそれ。それでね、渡すときはお兄様どうぞ、って言って渡して」 「ばっ…!」 「そういう決まりなんだよ」 「そうなのか!?」 「うん」 もちろん出まかせだが楸瑛はにっこり微笑んだ。 絳攸はぐっと奥歯を噛み締めて、男らしく綺麗な菓子の箱を鷲掴むと、勢いよくレジ台に置いた。 先ほどから店員がちらちらとこちらを窺っていることには気付かず、眉間の疲れをどっと感じていた。 「ありがとうございましたー」 手渡されたビニール袋を受け取り、振り返れば、満面の笑みの兄が手を伸ばしていた。 「…ここでか!?」 「うん、一秒でも早くね。待ちくたびれそうだし」 ちくりと刺され、絳攸はうっと詰まる。 「くっ…俺が、俺が悪いのか!?ええい、『オニイサマドウゾ』!これでいいか!?」 「うん、ありがとう絳攸。嬉しいよ」 「…ふん!」 ぷいと顔をそらす弟を促して、自動ドアを出る。 依然、こちらを見ている店員に、ちらりと自慢気に笑って見せてから、楸瑛は弟に向き直った。 「君さ、その素振り、君の親御さんにそっくりだよ」 「…ほんとか?」 「本当だよ。あ、今週末ヒマ?携帯買いに行こうよ」 当たり前のように二人一緒に駅に向かい、そのまま絳攸を家まで送る。 出会う前はなかったその『決まりごと』が、なんだかとても心地よかった。 終り |
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