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彩雲国の新刊は5月らしいですよ! さて、今回は一応バレンタインの話なのですが、なんといいますか、バレンタインぽくない上にちょっと濃い、気がします。 当初は絳攸と楸瑛の学生服姿が見たいー、と、それだけの話だったんです。 ところが蓋を開けてみると、『マリア様がみてる』ってコバルト文庫、ご存知ですか?姉妹制度があるお嬢様学校の話なのですが、なにやらそのパロディ風に! 最近、自分の趣味がなかなか偏ってるのではないかと思いはじめました。おかしいな、どこで道を誤ったんだろう。 うーん、まぁ、なにはともあれ、良かったらどうぞ読んでください♪ 『全部食べていいよ』 昨日も今日も毎日毎日、どうしてこんな奴と登下校しなきゃならないんだ! 彼がいつもの文句を心のなかで盛大に叫んだところで、学校が見えてきた。 校門を入ると、楸瑛は絳攸に向き直り微笑みを浮かべる。 「そういえば絳攸、ネクタイが曲がってるよ。こっち向いて」 「これくらい自分でやる!だいたい、気づいてたならもっと早く言え楸瑛」 「こら絳攸」 こつん、と額を小突かれ、絳攸はうっと口をつぐんだ。 しまった、と思っても後の祭りだ。 「いけないな、そんな言葉遣いじゃ。それに、学校ではなんて呼ぶんだった?」 「…さ、さぁな」 楸瑛が顔を覗き込むので、絳攸は視線を合わさないように明後日の方向を見なければならなくなった。 苦笑する気配がして、ネクタイがいつものようにきゅっとほどよいきつさで締めなおされる。 「“お兄様”だろう、絳攸」 「………」 毎朝のように拒否の意をこめて睨みつけても、効果はない。 「言わないと、お弁当であ〜ん♪の刑に…」 「ふっざけんなこの常春!」 「だから“お兄様”だって」 「っ…………………………………………………おにいさまッ」 「よくできました」 絳攸が吐き捨てるように呟くと、“お兄様”は絳攸の前髪をさらりと整え、満足げに微笑んだ。 「…屈辱だ…。なんで俺がこんな目に!」 楸瑛の手を避けて、絳攸は低くうめく。 「それは絳攸、君が迷子…」 「俺はっ!迷ってない!百合さんの教育は完璧だ!」 「はいはい。じゃ、君は図書館に行くんだろう?」 「一人でいく!」 「ふーーん?まあ、私も借りる本があるから」 「そ、それなら一緒に行ってやってもいい」 「はは、それはどうも」 桜舞う4月のあの日から、梅の香る2月のこれまで、絳攸の登下校には必ず楸瑛がついてくるようになった。理由を問いただしても、「だって私は君の“お兄様”だから」と飄々と笑われるばかりだ。 そう、あの春の日にひょんなことで、もしくはとんだことで、絳攸は楸瑛の“弟”になった。 二人が通うのは、世間的にも名の通った、伝統ある名門男子校だ。偏差値や進学率の高さはもとより、最大の特徴は“兄弟制度”があることだった。 これは、上級生が下級生を導くようにという趣旨で制定されたもので、上級生から下級生へ、自主的かつ合意の上でのロザリオの譲渡によって成立する。 「でもあれはあまり合意的じゃなかった!」 「やだなぁ絳攸、まだ言ってるの?結論から言えば君だって助かったろう?」 「……」 この抗議にはいつも勝てない。 口をつぐむ絳攸に笑いかけて、楸瑛はガラガラと図書室の扉を開ける。 「ほら、着いたよ。図書当番頑張ってね。私は朝練行ってくるから」 「…さっさと行け!」 「うん、じゃあまたお昼に教室に迎えに行くよ」 さらりとまた絳攸の髪を整えて、楸瑛は本も借りずに踵を返した。 だから嫌なのだ、と絳攸は内心でごちる。 俺に構わず、さっさと朝練に行けばいいのに。 腕時計の指し示す時刻は、図書当番にはぴったりだけれど、楸瑛が主将を務める剣道部の朝練にはいささか遅いはずだった。 ***** 楸瑛の部活があるときは、放課後、絳攸は図書室で迎えを待つ。 一人で帰ると言い張ったが、楸瑛がそれなら部活を休むと脅しをかけたためだ。 図書委員の仕事をしたり、本を読んだり、問題集を解いたりと、待っている間はなかなか絳攸にとって充実していて、嫌なことは特になかった。 楸瑛を待っているという事実と、お腹が空くこと以外は。 「今日は随分遅いね」 「邵可先生!すみません、遅くまで入り浸ってしまって」 司書教諭の邵可は、穏やかな人柄で、絳攸はこの先生がとても好きだった。 「いえ、実は今日は娘と約束をしていて、そろそろ帰らなくてはならなくて。すまないけど、鍵を渡すから戸締まりをして帰ってくれますか?」 絳攸は即座に了解した。 一人になると、時計の音が妙に耳につく。 何度も壁にかかっている時計に視線をやり、絳攸は眉を寄せた。 「……ほんとに遅いな」 いつもより一時間はすでに遅く、こんなのは初めてだった。 様子を見に行くにしても、格技場までたどり着く自信もない。 「………」 図書委員の仕事は終わった、問題集も解いてしまった、本を読んでも身が入らない。 絳攸は机に突っ伏した。 首にかけたロザリオが、微かに音を立てた。ついでに、お腹の虫も切なく鳴いて、彼は何だか情けなくなった。 ***** ああもう、今日に限ってこんなに遅くなるなんて! あたふたと身支度を整えた楸瑛は、格技場から図書室への最短ルートを猛然と駆けた。 ――朝練に遅れてくるんだったら、せめて居残り稽古に付き合ってくださいよ! そう後輩に言われては断りにくく、またつい稽古に熱中してしまい、気付いた時には時計が7時をとうに回っていた。 「あぁあヤバいよ、絳攸怒ってるだろうなぁ」 彼の“弟”はそれでなくともツンツンしているのだ。 今日はもう一つ懸案事項もあるというのに、機嫌を損ねてはそれもままならない。 ガラリと目的地の扉を開き、楸瑛はまず“弟”への謝罪を叫んだ。 「ごめん絳攸!遅くなって」 何が飛んできてもいいと覚悟していたのに、怒声も上履きも、何一つ返ってはこなかった。 もしや無視をされているのかと、図書室の中を見渡すと、机に突っ伏して寝ている彼を見つけた。 「…待ちくたびれちゃったか」 それは怒られるよりもずっと罪悪感を抱かせる。 一つため息をついて、楸瑛は絳攸の肩を優しく揺すった。 「ん…あ、楸瑛?」 寝乱れた前髪を直してやりながら楸瑛は眠たげに目を擦る絳攸に詫びた。 「ごめんね、随分待たせてしまって」 「いや…部活だろう?仕方ないじゃないか」 くぁ、と絳攸は遠慮なくあくびと伸びをする。と、その拍子にくるくると彼のお腹の虫も鳴いた。 「…っ!」 途端に顔を赤くし、険しい顔になる“弟”に、ふと思い付いて楸瑛は荷物から小さな箱を取り出した。 「こんな時間じゃお腹も空くよね。これ、食べる?甘いもの平気だよね」 むしろ好きだということを知りつつ、楸瑛は絳攸の前に箱を置くと、向かいの椅子を引いて腰を下ろした。 「いいのか?」 「もちろん。全部食べていいよ」 昼から何も食べていない絳攸は、空腹と、寝起きでぼんやりしているのも手伝って、何も疑問もなくきれいな包装紙をむき、箱を開いた。 なぜこんな明らかにプレゼント仕様の菓子を持っていたのか、などとはみじんも思わずに、整然と納まっているチョコレートを一粒ずつ口に運ぶ。 「おいしい?」 「うん」 頬杖をついてこちらを見ている楸瑛が、何故かとてもいい笑顔をしていることにも、絳攸は特に疑問を抱かずに素直に頷いた。 そうして最後のチョコレートを飲み込み、満足のため息をついた“弟”に、楸瑛は言った。 「全部食べたね、絳攸」 「…あ、ああ。だって、確か全部いいって言ったよな?」 怪訝そうに聞き返す絳攸に、楸瑛はにんまり微笑んだ。 「うん、言ったよ。それでね、絳攸。今日はなんの日?」 「なにって…」 2月14日。 ………………! はっとして表情を変える“弟”に、晴れてチョコレートを食べさせることのできた“お兄様”は、この上なく楽しそうにのたまった。 「お返し、期待してるからね」 「――――――っ!!」 これだから、“お兄様”はやめられない。 (終) 落書きで二人を書いてみました。↓ |
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